「自分にしか描けない絵」を模索してたどり着いた 水墨画で描く恐竜画家CANさん

画人画廊・on line vol.23 artist「恐竜画家CAN」2025年4月29日

「自分にしか描けない絵」を模索してたどり着いた 水墨画で描く恐竜画家CANさん

※ 恐竜水墨画「五竜図」。ヒーロー戦隊っぽくてカッコいい♪(編集者の個人的な感想です)

子ども時代に夢中になった恐竜を水墨画で描く、恐竜画家CANさん。現在、作家として活動しながら、大阪市中央区で「創作空間caféアトリエ」を経営しています。

絵本の出版や特別展「恐竜博2023」の公式グッズに携わるなど活躍していますが、大学時代の夢は「恐竜研究者」でした。

「恐竜のことまったく知らなかった」

恐竜に魅せられたのは高校2年生のとき。テスト勉強をするために通っていた地元の図書館で、休憩時間に地球科学の本を読むことが日常になっていました。

絶滅した生き物の図鑑や古生物の本があるコーナーで恐竜の論文集のような分厚い本を開くと、衝撃が走りました。

「私、恐竜のことまったく知らなかった」

※ 恐竜水墨画「宝くじが当たったパキケファロサウルス」。当時CANさんもこれくらいの衝撃を受けたんでしょうね。

人類の歴史は1000万年に満たないのに対し、恐竜は1億6000万年もの間、繁栄していたのです。

「そんなに長い間地球上にいたのに、たった1回隕石が来ただけで絶滅したのかと思ったら、そのときの地球環境の変化ってどんなにすごかったんだろうとすごく面白くて。学校の勉強はそっちのけでずっと恐竜の勉強をしていました」

子ども時代から墨で半紙に絵

科学好きな父の影響で、幼い頃から動物園や博物館、科学館に通っていたCANさん。もともと科学は身近な存在でした。

「なんで空は青いと思う?」「太陽までの距離はわかる?」

父からはそんなマニアックな質問をされましたが、考えることが楽しかったといいます。

同時に絵を描くことも大好きでした。小学生の頃から書道が趣味の祖母の部屋で、半紙に墨で絵を描いていたそうです。

※ 恐竜水墨画掛け軸シリーズ。小学生の頃から「墨」という画材は潜在意識のなかにインプットされていたのかもしれませんね。

家族に絵を褒められることがうれしく、画家のおばにデッサンやスケッチを習ったり、毎日描いたりして、毎年絵画コンクールで入賞していました。

中学校では美術部に入り、高校でも引き続き絵を勉強して芸術大学への進学を希望していました。

しかし、家族の反対もあって進路を変更。「大学へ行かずに画家になる人もいるし、本気で画家になりたかったら独学でできる」と考え、信州大学理学部に入学して恐竜や地球環境などを学びました。

「研究者」を諦め、カフェを開業

大学では「恐竜研究者」をめざしましたが、当時は大学卒業後に海外で研究実績を積むことが必要でした。

「大学も奨学金をもらって通っていたので、海外で勉強するとなると経済的に難しいと思い、就職しました」

大学での学びをいかし、卒業後は「地球のために水をきれいにする仕事に就きたい」と水質処理の技術職として働きました。しかし、長時間労働や休日出勤など職場環境が厳しく、1年で退職。心身共に限界でした。

「ゆくゆくはカフェの経営もやりたい」と興味を持っていたCANさん。大学時代にはカフェ巡りのブログも書いていました。

退職後、カフェの開業に向けて経営を学び、2017年にオープンしたのが「創作空間caféアトリエ」です。

※ ご自身が運営される「創作空間Caféアトリエ」で初めての絵本を手に持って。

コンセプトは「大人のための美術部カフェ」。長時間利用を想定した時間料金制となっていて、作家やデザイナー、小説家など創作活動をする人たちが集まります。

CANさんはカフェをオープンする前にイラストレーターとしての仕事も始めていて、「絵描きさんが集まる店があったらいいのにな」と考えていたそうです。

自分にしか描けない絵を

イラストレーターとして恐竜の絵を描き始めたのは2018年。それまでは女の子のイラストを中心に描いていましたが、「自分にしか描けない絵を模索していたときにたどり着いたのは、やっぱり恐竜でした」。

JR上野駅でのライブペイント。大迫力の作品です!

筆ペンで20万人以上の似顔絵を描いてきた似顔絵師の薫陶を受け、本格的に水墨画の道に進みました。
「#1日1恐竜」というタグをつけてSNSに恐竜の絵を毎日投稿すると、カナダの研究者から連絡が来たり、出版社の目に留まって絵本の出版につながったりしました。
2021年には、カワチ画材阪急三番街店店内ギャラリー「画人画廊・阪急三番街」で個展も開いています。

子どもたちに魅力を伝えたい

※ 阪神百貨店でのお絵描きイベント「アートな恐竜パーク」。楽しそうに色を塗ったり、恐竜を描いたりと子供たちは興味津々です。

CANさんが1番好きな恐竜は「パキケファロサウルス」です。「恐竜の中でも特に多様性が表れています」と話します。
「肉食恐竜も、にわとりぐらいのサイズから20m近くのものまでいますが、草食恐竜はもっと多様です。肉食恐竜から食べられなくするために体が大きくなったタイプや、トリケラトプスのようにえり飾りが大きく角があるタイプ、体がトゲトゲしているタイプなど、様々な試行錯誤を繰り返してきているのだと思います」
「パキケファロサウルスはとても不思議なんですよ。頭だけ20cmくらい全部が骨なんですけど、何が起こったらそうなるのか分からないですよね。いろいろな環境に適応して恐竜が生きていたという証拠で、それが本当に面白いです」

※ 絵本は子供たちにとって恐竜との出会いの場ですね。左:「ボクは「弱虫」だったから」右:「オレは「最強」だったから」 共に潮出版社。

「博物館に行ったら、恐竜が何でこんなにも違うのかというところに疑問を持つともっと楽しめると思いますよ」
画家としての今後の活動については、「全国の子どもたちと直接出会えるイベントなどの場で、『恐竜ってこんなに素敵で、こんなに面白いんだよ』『地球科学を勉強すると楽しいよ』と伝えていきたいです」。
海外進出にも関心があり、ゆくゆくは研究者の知り合いがいるカナダで個展を開きたいと話しています。


 

◆7月に「恐竜えほん2人展」

7月に東京でCANさんと恐竜作家やまだれいなさんの2人展が開かれます。

「恐竜えほん2人展」
場所:東京神保町ブックハウスカフェ
期間:2025年7月23日(水)〜29日(火)
URL:https://pont.co/u/kyouryuu-futari

 


◆プロフィール
恐竜画家CAN(きゃん)さん:2013年 信州大学理学部物質循環学科卒業。水墨画で恐竜の絵を描く画家として活動しながら、大阪でカフェ「創作空間caféアトリエ」を経営。イラストを担当した著書に『6600万年前……ぼくは恐竜だったのかもしれない』(知楽社)、『オレは「最強」だったから』『ボクは「弱虫」だったから』(いずれも潮出版社)。
画家ブログ:https://dinocan.com/category/blog/
インスタグラム(@dinocan2018):https://www.instagram.com/dinocan2018

◆使っている主な画材
・ぺんてるの顔料インク筆ペン中字
・墨運堂の墨液、固形墨
・書道筆、高級和紙
・水彩:アルシュ、ホルベイン透明水彩、水彩筆(ブラックリセーブル)


◆ライタープロフィール

河原夏季

朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。

SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。

1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。

クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。

Twitter https://twitter.com/n_kawahara725

関連記事

PAGE TOP