画人画廊・on line vol.10 artist「いくたけん」2024年3月30日
「本当に色鉛筆で描いてるの?」驚かれる画風 クリエイター・いくたけんさん
※着色の様子。絵の具で塗っているのではなく色鉛筆で塗られています。
粉が出るほど力強く塗り、芯がなくなっては手動の鉛筆削りで削る。クリエイターのいくたけんさん(35)は、色鉛筆を使って数多くのカラフルな作品を描いてきました。
まるで絵の具で塗っているかのような色鉛筆らしからぬ画風は、かつて画材店のスタッフからも「本当に色鉛筆で描いているんですか?」と驚かれたそうです。
長年けんさんのアートを見てきた兄(37)に話を聞きました。
「絵」は感情表現
3歳のときに「自閉症」と診断された、けんさん。発達がゆっくりで話すことは苦手でしたが、「言葉は遅くても別の感情表現がある」と親に勧められ、兄と絵画教室に通ったといいます。
※「三色鯉と紅白鯉」と仏像シリーズ。
描くモチーフは気分次第。仏像や動植物、キャラクターなどを描いてきましたが、最近は魚をモチーフにすることが多いそうです。
周囲が「これを描いて」とお願いするのではなく、自由に鉛筆を走らせることで魅力的な作品が生まれるといいます。
自宅に常備する色鉛筆は数千本。色の種類は数え切れません。作業スペースだけでなく、ガレージにも色鉛筆が束で置かれているといいます。
※画材店のストックよりもたくさんも色鉛筆(左)と、どんど短くなる色鉛筆(右)。
20年以上前からカワチ画材に通い、必要な道具を購入してきました。筆圧が強いため色鉛筆の消費が早く、一度に200~300本まとめて買っているそうです。ほしい色鉛筆は色ではなく品番で指定することもあります。
下絵を描いた翌年に色を塗る
※お気にいりの作品「春を告げるフキノトウ」
作品は、薄いオレンジ色の下書きにビビッドな色を塗り、最後に墨汁で縁取りをします。グラデーションや重ね塗りはしません。
ユニークなのは、作成過程です。
「けんは、下絵を描いた年と色を塗る年が違うんです。作品に入れる日付は下書きした日付。下絵をためておいて、あとから色をつけています」
※製作工程 左:薄いオレンジ色の下書き 中央:色鉛筆での着彩 右:墨汁で縁取り
2004年からほぼ毎年、大阪市内のギャラリーで個展を開いているけんさん。絵はコミュニケーションツールにもなりました。
初対面の人と話すことは得意ではありませんでしたが、個展を続けるうちに自ら発言する機会も増えてきたといい、「自分から来てくれた人と写真を撮るようにもなった」そうです。
コロナ禍で開催を見送った年には、SNSでの発信も始めました。
インスタグラムに作品や制作風景を載せるようになってから、兄は「(けんさんが)写真を撮られるのを楽しんでいる」と感じるそうです。
SNSを通して多くの人に見てもらえることがモチベーションにつながっていると話し、制作時の気持ちに余裕も出てきているといいます。
「以前は嫌なことがあったら気持ちをぶつけるように絵を描いていた時期もありますが、いまはゆったり楽しく描いているんだろうなと思います」
「楽しく絵を描く」
長年そばで活動を見守ってきた兄でしたが、ここ数年の個展で初めて気づいたことがありました。
「毎年個展にひまわりを贈ってくださる方がいて、けんはその絵を何枚も描いていたんです。今まで漠然と見ていましたが、実は作品の日付を追っていくと、はじめはつぼみが多く、次第に花が開き、元気がなくなっている様子を描いていることが分かりました」
※ひまわりの花びらや葉っぱの数が少なくなったり、中央部分の筒状花がどんどん開いていく様子が描かれています。
日々ひまわりの様子を観察してその通りに描いていたけんさんに、「うそやん、ただ描いていただけちゃうやん」と驚いたといいます。
絵の雰囲気が年々明るくなっていることは見る人にも伝わっていて、10年以上個展に来てくれている人から「けんちゃん、いいことあった?」と聞かれることもあるそうです。
今後について、「これまでと変わらず『楽しく絵を描く』ことを目標にしていってほしい」と兄は話します。
「いろんな人にけんの絵を知ってほしいですし、絵を描くことを楽しんで生きていくけんを僕らが手助けしていきたいと思います」
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◆プロフィール
いくたけんさん:1988年、大阪府出身。2004年から大阪市内のギャラリーで個展を続ける。2つ上の兄がX(@KENn0seka1)やInstagram(@ken.nosekai)で発信している。
◆使っている主な画材
色鉛筆
布マーカー
墨汁
筆
スケッチブック
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◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。