「紙様のおかげ」 和紙でフェイクフードを作る78歳、メガネのおじいちゃん

画人画廊・on line vol.09 artist「メガネのおじいちゃん」2024年3月1日

「紙様のおかげ」 和紙でフェイクフードを作る78歳、メガネのおじいちゃん

※中身がすべて和紙で作られています!

お弁当、パン、カニ、サケ、お味噌汁……こんなにおいしそうなのに、いずれも「原材料」が和紙のフェイクフードです。

作者・メガネのおじいちゃん(78)=大阪府在住=は、これまでに750種類ほどのフェイクフードを作ってきました。「保管場所に困るくらいです」と笑います。

20年前、妻へのいたずらが…

フェイクフードを作るきっかけは20年ほど前。58歳で住宅会社を退職後、「暇つぶし」で段ボールの飛行機や貯金箱、バッグを作っていました。

ある日、「ほんのいたずら心」から妻が職場に持っていくおやつのクッキーに、段ボールで作った〝ニセモノ〟を忍ばせました。

※これが「ニセモノ」? 思わず買ってしまいそうです。

妻には「もう少しで食べるところやった」と叱られましたが、人を驚かせる楽しさを感じたといいます。

もともとデザインに関心があり、武蔵野美術大学で学んでいましたが、和紙と出合って本格的に作品を作るようになったのは70歳を過ぎてからです。

ちぎり絵を楽しんでいた姉が「あんた、いらへんか?」と大量の和紙を譲ってくれ、メガネのおじいちゃんは「こんなにたくさんの種類があるんや」と和紙の奥深さに気づいたといいます。

※おすすめポイントは「ネギ」部位によって異なる色味がちゃんと表現されています。

和紙を手に取るなかで、茶色い紙を見て「ハンバーグの柄に似ている」、黄色い紙は「卵焼きに似ている」と感じ、自己流で食べ物を作るようになりました。

日々スーパーで「ネタ集め」

※この中に「本物」は1つ・・・・・・もありません♪ ※パッケージはリサイクルです

和紙で作るのは、誰もが知っている身近な食べ物。日々の生活の中で「ネタ集め」が欠かせません。

「週3日、妻と一緒にスーパーに行って、食材を見ながらこれやったらできるかなと考える」というメガネのおじいちゃん。トレーや空き袋も、食品が入っていたものをリサイクルして展示に使用します。

料理雑誌やテレビの料理番組もネタの宝庫で、気になったものは写真に撮ってためておくそうです。

現在自宅には70種類ほどの和紙がありますが、それでも足りなかったら買い足したり、雑誌や新聞広告をちぎったりして「材料」にしています。

「私は和紙を貼ったり丸めたりしているだけ。本当に〝紙様〟のおかげなんですよ。紙がないと苦労するんですけどね」

※これは!もうワタリガニ以外に何者でもないですね。「これ和紙ですか、ほんとうに」って言っちゃいます。

最近の自信作は「ワタリガニ」。通常、作品は3時間ほどで作りますが、ワタリガニの色を表現するために何度も和紙を重ねたりはがしたりして調整し、10時間かけて完成させたといいます。

SNSの反応がモチベーションに

当初、作品は妻や孫に見せて楽しんでいましたが、置き場に困るようになり写真に撮っては捨てていたそうです。

※食品サンプルによくある風景ですよね。「いまから食べるワンシーン」↓(下の写真に続く)

「こんなに作っているんだから、SNSにあげたらいいんじゃない?」。長男で画家の西滝直人さん(51)が提案し、2019年から直人さんサポートのもとSNSに投稿しました。作品は多くの人に注目され、メディアの取材も増えました。

「樹脂粘土やフェルトでフェイクフードを作る人は見るけど、和紙はあまりライバルがいないのかも」と話すメガネのおじいちゃん。「フォロワーさんからの『いいね』や『コメント』がうれしい」とモチベーションにもなっています。

同じころ、カワチ画材心斎橋店を会場に個展「おじいちゃんのぜんぶ和紙~和紙で作られたフェイクフード作品展~」を開きました。以降、直人さんとの親子コラボ展も含めほぼ年1回のペースで展示をしています。

※こちらもある意味「今から食べるワンシーン」。いや「食べかけてるワンシーン」。このシーンを作るとは流石です。しかも油じみも和紙なんです。

メガネのおじいちゃんは、「食品サンプルを作っているわけではないので、一瞬驚いてくれたらいいし、『よく見たら紙やないの』と面白がってもらいたい。元気なうちは続けていきます」と話します。

地元・小豆島に「貢献したい」

 

※2023年夏休みにカワチ阪急三番街のワークショップで作ったかき氷。ご参加されたお子様もとても楽しそうでした♪

一方で、「作品のネタが尽きてきている」とも感じるメガネのおじいちゃん。今後は子どもたち向けのワークショップにも関心を寄せています。

これまでに2回、生まれ故郷の香川県・小豆島の図書館で作品展とともにワークショップを開きました。

18歳まで育った小豆島のために「ほんのちょっとでも貢献したい」という思いが背景にあります。

「今後も地元でオファーがあれば教えていきたい。子どもたちが笑顔で楽しんでくれたらいいなと、それだけですね」と話しています。

ーーーーーーーーーーーー


◆プロフィール
メガネのおじいちゃん:1945年、香川県出身。2019年から趣味で和紙のフェイクフードを作り、作品展やワークショップを開いてきた。X(@meganenooo)やInstagram(@meganenoo)、TikTok (@meganenoo)で発信している。

◆使っている主な画材
和紙(色がない場合は新聞、雑誌、チラシ)
カッター
はさみ
のり
キッチンペーパー
紙テープ


◆ライタープロフィール

河原夏季

朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。

SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。

1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。

クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。

Twitter https://twitter.com/n_kawahara725

関連記事

PAGE TOP