「アートを身近に!」手のひらに収まる「マイクロキャンバス」で広がる世界 プロジェクト発起人・志方功一さん

画人画廊・on line vol.22 artist「プロジェクト発起人・志方功一」2025年3月31日

「アートを身近に!」手のひらに収まる「マイクロキャンバス」で広がる世界 プロジェクト発起人・志方功一さん

※マイクロキャンバスの可能性を感じる写真。絵画だけでなく様々な手法の基底材としても最適です。

絵の具を乗せたり、輪ゴムや毛糸を巻いたり、ボタンを貼ったり。多様な表現の土台となっているのは、縦3cm、横2.5cmの「マイクロキャンバス」です。裏はピンバッジになっていて、カバンなどにつけて持ち運ぶことができます。

2019年、「アートをもっと身近に!」をコンセプトに始まった「神戸マイクロキャンバスプロジェクト」。

神戸市職員の志方功一さん(47)が、アートの新しい楽しみ方を多くの人に体験してもらいたいと企画しました。

「売りにくい、買いにくい」を解決

発案のきっかけは、同年4月に市役所内の関係先や官民をつないで社会課題の解決をめざす部署へ配属されたことでした。「アートを生かしたまちづくり」に取り組むことになった志方さんは、市内のギャラリーを回ったり、アーティストから話を聞いたりするなかで、気になることがあったといいます。

「『原画は売りにくい』『買いにくい』という悩みをよく耳にしました。展覧会に行っても高価な作品は買えず、ポストカードや缶バッジを買って帰るだけではお客さんも物足りません。そこで、小さい原画や持ち運べる機能性があるといいのではと思いつきました」

※志方さんがノートに書いたイメージ図。

「アート=キャンバス」というイメージがあった志方さんは、手のひらに収まる「マイクロキャンバス」のアイデアをノートに描いて、Facebookに投稿しました。すると、すぐにアーティストから「おもしろい」と反応が寄せられたといいます。

※志方さんが作られた試作品。実際のキャンバスのように画布を巻き込み、タックス(釘)を使用しリアリティを追求

1週間後には自らホームセンターで購入した板や釘などを使って試作しました。試作品をSNSに載せるとさらに反響があり、「展覧会をしてみませんか?」とアーティストから声をかけられたそうです。

可能性を感じた志方さんは、本業である神戸市役所の活動とは別の事業として、プロジェクトを立ち上げることにしました。神戸市役所には、地域貢献のためなら副業が可能な「地域貢献応援制度」があり、利用しているといいます。

「マイクロキャンバス」でつながりを作る

2019年に神戸市で開かれた「マイクロキャンバス展」には、画家やイラストレーター、大学生、福祉作業所の利用者、教育関係者らプロアマ問わず約150人が参加しました。

※アクリル画家・西倉ミトさんがマイクロキャンバスに描かれた作品。周りの絵具や筆の大きさをみるとキャンバスの小ささがよく伝わります。

本業ではギャラリーの運営にも課題を感じていた志方さん。ギャラリー同士のつながりを増やしたり、普段接点のない人に知ってもらったりするため、展示会への参加は市内のギャラリーで申し込むかたちにしたそうです。

※志方さんと運命の出会いをした編集者。商品化が実現しました。(通販もあります。画像をクリック)

展示会では偶然カワチ画材の担当者に出会い、商品化にもつながりました。マイクロキャンバスの製造は、障害者の就労訓練の一環として就労継続支援B型事業所に依頼。ひとつ440円(税込)で販売しています。

プロジェクトを続けるため、意匠登録もしました。「キャンバスとピンバッジの金具という単純な組み合わせですが、それまで世の中にはありませんでした。自分の発想が認めてもらえ、自信にもつながりました」と志方さんは話します。

※持ち運びができる小さなアートなのでご自身で描いたイラストなどをファッションと組合すことができ、アートを身近に楽しめます。

コロナ禍ではInstagram上で展示会をして全国から作品を募りました。徐々に愛好者が広がり、現在は志方さんの手を離れ静岡や千葉など各地で展示会が開かれています。

「値付け」も自由な発想で

プロジェクトには、3歳から90歳代までの老若男女が幅広く参加しています。志方さん自身もマイクロキャンバスにジーンズの絵を描いたり、公園の土管を表現したり、自由な発想で作品を作りました。

※絵が描けなくても立体やコラージュなど自由な発想でアートを身近に感じることができます。

「アートは敷居が高いものではなく、手軽に取り組める身近なものなんです」という志方さん。「絵心がないと言っていた人でもアート作品ができたとか、幼いお子さんが描いてみたら抽象画のようになったなど、小さい素材だからこそ広がる世界や自由さがあります」

作品はすべて一点物。みんなが作った作品は、自由に値付けをして展示会などで販売もします。子どもたちにも自分の作品の値段を考えてもらうそうです。「一生懸命作った作品を売りたくないから高い値段をつけようかと悩むことも含めてアート体験」と志方さんはいいます。

SNSやハンドメイドサイト、ギャラリーで企画されたオークションでマイクロキャンバスの作品を販売するアーティストもいて、数万円の価値がついた作品もあるそうです。

アイデアを形にする大切さ

小学校で「アイデアを形にする」という授業を担当している志方さん。子どもたちには「アイデアはまず絵にして、絵にしたものを立体にし、実際に取り組む」と伝えました。

※頭の中のアイデアをノートに書くだけでなく、行動を起こすことの大切さを実感します。

「マイクロキャンバスはアイデアを絵にしたからこそ共感され、立体にしたからこそ今につながっています。アイデアだけだったら消えてなくなっていたかもしれません」

マイクロキャンバスが全国に広がることで販売数も伸びていますが、現在、製造を担っているのはひとつの事業所のみで需要に追いついていないことが課題です。

今後は新たな事業所を探すとともに、海外の人たちへもマイクロキャンバスを知ってもらうため活動を続けていくといいます。

「このプロジェクトは共感がベースになっています。日本だけではなく、海を越えて共感してもらえそうな人に情報を届けていきたいです」



◆プロフィール
志方功一さん:1978年、神戸市生まれ。神戸市役所に勤務するかたわら、2019年に「神戸マイクロキャンバスプロジェクト」を企画。これまでの製造数はおよそ1万個。ほかにも「野球カステラ」「炭酸飲料」「レトロ遊具」などを応援する地域活動を立ち上げている。

◆マイクロキャンバスの仕様
縦3㎝、横2.5㎝、厚み6mmの木材の板に画材用のキャンバスを接着・釘止めし、バッジ金具やストラップ等を取り付けた張りキャンバス。アクリル絵の具、水彩絵の具、油性マーカー、水性マーカー、色鉛筆など、ほとんどの画材を使用可能。

<神戸マイクロキャンバスプロジェクト>
Instagram(@kobemicrocanvasproject):https://www.instagram.com/kobemicrocanvasproject/
ホームページ:https://microcanvas.amebaownd.com/


◆ライタープロフィール

河原夏季

朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。

SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。

1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。

クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。

Twitter https://twitter.com/n_kawahara725

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