画人画廊・on line vol.16 artist「オバケのタムタム」2024年10月15日
「失明は免れない」落ち込んだ先に…「社会との接点」になった〝創作〟 全盲の画家・オバケのタムタムさん
自身の姿も、名前も、性別も、年齢も、すべて非公表。謎に包まれた存在・「全盲の画家」オバケのタムタムさん(以下、タムタムさん)は、2020年3月からInstagramを中心に貼り絵や水彩画など味のある作品を発表しています。
※corolfulwhale・・・自分の不自由さをクジラに託している
16歳のときに網膜色素変性症と診断を受けました。徐々に視野が欠けて見えない部分が多くなり、失明する難病です。
当時は思春期で、自分の将来についても考え始めた頃でした。「少しずつ職業も考えていましたが、努力して何かの仕事に就いても失明は免れない。その先どう生きていったらいいのだろうかと、ものすごく落ち込みました」
文筆活動に打ち込んだ日々
幼い頃から童話などの本が大好きだったタムタムさん。高校を卒業して進学後、「ものの見方が鋭いから文章を書いてみたらどうか」と父親に背中を押されてファンタジー作品を書くようになりました。
目は疲れやすく、見えづらくなっていましたが、なんとか原稿用紙を埋めてコンテストに応募したところ1次審査を通過。翌年は父親に清書を頼んで挑戦し、最終候補に残ったといいます。
※メンダコ・・・息子さんと一緒に行った水族館で初めて知った生き物。とても面白いと思ってずっとぬいぐるみを触って形を覚えたそうです。
20代で結婚後も文芸サークルに参加し、年に1度は同人誌に発表。たまに童話やエッセイを書いてコンテストに応募していました。27歳のときには、日本童話会の新人賞も受賞したそうです。
今でこそパソコンを使っていますが、以前は油性ペンやクレヨンでわら半紙に大きく文字を書き、家族に清書をお願いしながら文筆活動を続けていたといいます。
子どもが生まれたあともわずかに視力はありましたが、徐々に見えなくなっていき、子どもが10代の頃に全盲になったそうです。
創作のきっかけになった言葉
そんなタムタムさんが絵を始めたのは2019年。「何か社会と関わりを持つことをやってみたら?」という長男の言葉がきっかけでした。
もともとひょうきんな一面もあったタムタムさんが年々引きこもりがちになり、鬱々としている様子を心配してのことだったといいます。
タムタムさんは読書や文章での表現は続けていたものの、外の世界との接点は多くありません。ひとりで行動することが難しいため、おのずと家から出ることがおっくうになっていました。
何ができるかを考えたとき、思いついたのが年賀状に描いていた干支(えと)のイラストです。2013年に粘土とモールを使って「ヘビ」を描いて以降、何らかの絵を描いていました。
本格的に絵を描き始め、指先の感覚を頼りに創作していくと、おもしろさを感じたそうです。
貼り絵の場合、粘土を使って「下絵」を作ります。粘土に合わせて型紙を切り、そこに細かく切った和紙やフェルトなどを貼っていきます。
※ワニと小鳥・・・図鑑を見ていて記憶に残っていた絵。息子さんはこの絵を境にすごいことやってるんじゃないか?と思い始めたそう。
モチーフにするのは動物や植物、自然が中心です。
家族と外出した先で花が咲いていたら触れてみて、形や感触を記憶します。色や形の細部は家族に説明してもらい、帰宅後にパソコンで検索して音声読み上げ機能を使って詳しく調べます。
数年前に水族館へ出かけた際、初めてメンダコの存在を知りました。ショップでメンダコのぬいぐるみに触れて「おもしろい形」にひかれ、イメージを膨らませて作品にしたといいます。
幼い頃に見ていた生き物や動物図鑑の記憶も、創作の助けになっています。
「田舎に住んでいて、生き物や自然が好きでした。色や形は脳内で想像して作っていますが、実際にどうなっているかは分かりません」と笑います。
Instagramからつながった世界
作品を作り始めた当初はどこにも発表せずにいましたが、長男のサポートもありInstagram投稿を始めました。
「使い方が分からず、SNSにはいい印象もなかった」というタムタムさん。作品の画像は長男がアップし、投稿に寄せられたコメントをコピーしてタムタムさんに送っていたといいます。コメントへの返信も長男経由で投稿していました。
しかし、多忙な長男にずっと任せることに申し訳なさを感じ、開設から約1年後にはタムタムさん自身がパソコンでInstagramを開き、コメントに返信するようになったそうです。
当初、投稿に付けるハッシュタグを英語にしていたことから、現在もフォロワーの4割ほどは海外のユーザーだといいます。
「リアルだけが人とのつながりではないことに気づきました」とタムタムさん。
面識のないフォロワーがほとんどですが、「頻繁にコメントをくださる方もいて親しみが持てます。文章を通して人柄が伝わってくるんです」と話します。
※2024年1月 カワチ心斎橋店・画人画廊で開催した個展「心の目で見る個展」
Instagramの発信がきっかけとなってカワチ画材とも接点ができ、心斎橋店の店内ギャラリー「心斎橋・画人画廊」での個展やグッズ販売につながりました。
「Instagramを通じてお仕事をいただくことは予想外の展開でしたが、とてもやりがいがあります」
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家族に支えられ「絵は生活の一部」に
創作活動を始めて5年。視力ゼロから表現活動に取り組みましたが、いまでは「絵は生活の一部」になったとタムタムさんはいいます。
「毎日のように絵のことを考えたり、調べたり、作ったり、刺激になります。頭を使うようになったので将来の不安などネガティブなことを考える時間も少なくなりました。続けていくことが大事ですね」
企業主催のアートコンテストなどで最優秀賞を受賞するなど、評価される機会も増えました。以前と比べて外出する機会も多くなり、興味の幅も広がったそうです。
※オシリーズ・・・息子さんは、元々ひょうきんな作者が年々鬱状態で暗くなっていくのを見るのが辛かったので、この絵を見た時はすごく嬉しかったそうです。
背中を押してくれた長男については、「敏腕マネージャーのような存在」と表現します。
「ちょっと迷ったときも冷静な目でアドバイスをくれる。そういう見方もあるのかとハッとさせられますし、いろんな面で助けられていますね」
長男はタムタムさんについて、「もともと絵の才能があったわけではなく、努力して努力して失敗作だらけ。やっとうまくできたものをSNSやコンテストに応募しています」と話します。
「才能があるわけではないからこそ、幅広い人の心に寄り添える絵になっているのではないでしょうか」
タムタムさんは今後について、「1冊でも2冊でも絵本を作れたらと思います。少しずつお仕事をいただけるようになってきたので、家族を海外旅行に連れていってあげられたらいいな」と話しています。
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◆プロフィール
オバケのタムタムさん:全盲の画家。16歳で網膜色素変性症の診断を受ける。2020年よりInstagram(@tom_tom_ghost)を中心に作品を発信。作家名の由来については、「自由に動き回れない分、分身のオバケに旅をさせるような感じです。タムタムは打楽器が好きなのでその名前から取りました」。
◆使っている主な画材
・透明水彩絵の具 Stockmar
・ワトソン紙
・筆
・油粘土
・ハサミ
・デザインカッター
・厚紙
・和紙、フェルト、モール、鳥の羽など
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。