画人画廊・on line vol.29 artist「絵描き・藤岡美紗子」2025年9月1日
「懐かしさ」から感じる「温かさ」 海外の絵本のような世界を表現する絵描き・藤岡美紗子さん
※最初に作品を拝見したとき、てっきり海外の作家さんのものだと思ってしまいました。(編集者談)
「海外の絵本のような世界観ですね」。藤岡美紗子さんが描く水彩画には、よくそのような感想が届くそうです。
子どもの髪色や瞳の色、服装や風景も、どこか海の向こうを連想させます。
絵を描く際に意識しているのは、「懐かしさ」です。
※丸い郵便ポストを実際に見たことがない世代でも、不思議と懐かしさを感じるものですね。。
「例えば、幼いころに遊んでいたおもちゃや大好きだった風景、まったく見たことのない風景でもどこか懐かしさを感じることはありますよね」
「そのときにわき上がってくる感情は、優しさと切なさ、寂しさが入り混じったような、不思議な感覚だと思うんです。私はそのすべてを含めて『温かい』と思えるので、そんなふうに感じられる絵を描けたらと思っています」
部屋の掃除で再認識した、絵本の魅力
藤岡さんが本格的に絵の仕事を始めたのは10年ほど前でした。
高校卒業後、専門学校の絵本コースに進んだ藤岡さん。小さいころから絵本が大好きで、幼稚園に入る前から絵ばかり描いていたといいます。祖母が絵をほめてくれたことがうれしく、「漠然と、私は一生描き続けようと思っていた」そうです。
※余談ですが編集者もドラえもんをよく描いていて、将来の夢はドラえもんを描く人になることでした。
小学校ではよく「ドラえもん」を描いていて、ニックネームが「ドラえもん」になるくらい「絵を描く=私」という感覚があったそうです。物語を考えることも好きで、マンガも描いていたといいます。
もう一度絵本に惹かれたきっかけは、高校生のときの部屋の掃除でした。
「片付けをしていたときに、ふと幼少期に大好きで読んでいた絵本『ぶたぶたくんのおかいもの』(福音館書店)を見つけて読んだんです。そこで『私、こういう絵本を描きたかったんだ』と思い出しました。久しぶりに開いてみたら、やっぱりすごくいい本でした」
「物語を書きたい気持ちもありましたし、絵本は自由度が高いなと感じました。画材も自由に使っている印象でしたし、カラーもあればモノクロもあります」
専門学校で2年間学び、藤岡さんは絵本の魅力を再認識しました。
※藤岡さんのように、最初にデッサンから入るよりも、絵を描く楽しさを知ったあとにデッサンに取り組むほうが、理解が深まりやすく、上達も早いと感じます。(編集者の個人的な意見です)
一方で、「自分の絵の力はすごく弱いなと思い、卒業後に独学で絵を勉強しました」と話します。水彩やデッサンの本を買って基礎から学び直し、「もっと自分らしい絵を描けるんじゃないか」と模索したそうです。
ロシアアニメに衝撃を受けた
「専門学校に通って感じたのは、私の絵は自分が今まで見てきたマンガや絵本をまねて描いていただけだったということです。模写に過ぎませんでした」
専門学校では、海外の絵本などこれまで出会ったことのない世界に触れ、自身の好みを確立していきました。
「こんな世界があるんだ」と衝撃を受けたのは、ロシアのアニメーションです。
※タイトル「I’m looking for your house」「君の家を探してるよ」という、どこか懐かしくも温かな世界観は、藤岡さんにしか描けないものです。
ロシアアニメの巨匠ユーリー・ノルシュテインの『霧につつまれたハリネズミ』を見たとき、「どこか懐かしく、落ち着く感じ」がありました。
現在、藤岡さんが作品を描く際に意識している「懐かしさ」は、ノルシュテインの作品に出会ったときの感覚と近しいのかもしれません。
※藤岡さんの作品は、落ち着いたトーンでシンプルでありながら、驚くほどの奥行きと空気感が感じられます。
藤岡さんの描く世界は「冬」の情景が多く、コバルトブルーやイエローオーカーといった落ち着いた色を中心にシンプルに仕上げます。色数は5色前後。情報量を少なく、わかりやすさを重視しています。
「懐かしさを感じるときは、心が静かになると思うんです。『静けさ』を描きたいと思うと冬が自分の世界観に合うので、描いているのだと思います」
数年前までは「明るい色を使って、かわいく描かないといけない」という思いもありましたが、いまでは「もっと好きに描いていい」と自身の好みを大切にするようになりました。
「シンプルな世界を突き詰めていきたい」
現在、藤岡さんは作家活動を続けながら、カワチ画材あべのHoop店のスタッフとしてレジや品出し、額装の仕事などをしています。
10年前、フリーランスで絵を描く仕事をしていた際、ほかにアルバイトを探していたところ、求人のポスターを見て応募したそうです。
※画材店で働くということは、常に新しい刺激や発見に出会えるということ。クリエイターの方にとっては、非常におすすめの環境です。
「画材店は『可能性を感じられる場所』でした。画材を見ているだけで、『これ使ったらどんな感じになるかな?』『今度これ使ってみたいな』と想像が膨らみ、刺激をもらえるんです」
「画材に囲まれて毎日過ごせたら、創作に対して常に挑戦していけるのではないかと思って、応募を決めました」
ゆくゆくは絵本の制作も考えていて、「おじいさんが登場する、ノスタルジックな物語を書けたらと思っています」と語ります。
※おそらく、多くのクリエイターが一度は挑戦してみたいと思う技法――それが「銅版画」です。
水彩画に加え、銅版画も始めたという藤岡さん。「よりシンプルな世界で、自分の作品の世界を突き詰めていけたらと思っています。チェコの版画にも興味があり、いつか現地に行って勉強してみたいです」と話しています。
藤岡美紗子さん:奈良県在住。絵描きとして活動を続けながら、2015年よりカワチ画材あべのHoop店に勤務。Instagramで発信する作品には、外国語の感想が寄せられる。2024年7月には画人画廊阪急三番街で作品展を開催した。
Instagram(@misako_fujioka):https://www.instagram.com/misako_fujioka/
◆使っている主な画材
・W&Nデザイナーズ•ガッシュカラー 不透明水彩絵具(バニーコルアート)
https://www.bonnycolart.co.jp/subbrand/detail/43/
・アルシュ水彩紙 細目(マルマン)
https://www.e-maruman.co.jp/lp/arches/lineup_watercolor.html
・ブラックリセーブルSQ(ホルベイン)
https://holbein-shop.com/?mode=grp&gid=1797746
【今後の展示予定】
・2025年10月18日(土)〜10月30日(木)
藤岡美紗子 個展「カケラをあつめる」
カワチ画材心斎橋店 店内ギャラリー「心斎橋画人画廊」
大阪市中央区東心斎橋1-18-24
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。