画人画廊・on line vol.05 artist「オダカマサキ」2023年10月31日
ダンボールアーティストであり、サラリーマンでもある。オダカマサキさんが「両輪」を続ける理由
ダンボールをアルコールで湿らせ、こねることで美しい曲面やディティールを表現するーー。
オダカマサキさん(47)=埼玉県在住=は、独特の技法で造形を追求するダンボールアーティストです。
ドラゴンや尾長鶏、ぬらりひょんなど、作品の数々は今にも動き出しそうなほどリアルに作り込まれ、たてがみ1本、うろこ1枚にも魂が宿っています。
※左から「龍神」「尾長鶏」「ぬんらりひょん」
各地で展示会やワークショップを開いたり、著書を出版したり活躍するオダカさんですが、昼間の顔は東京都内にある通信機器メーカーのデザイナー。
作品づくりに打ち込むのは、帰宅後や休日なのだそうです。
ダンボールアート、きっかけは次男
ダンボールアートを始めたのは2015年。「僕の才能は息子が発見してくれたもの」とオダカさんは話します。
当時引っ越した後で家にダンボールがあり、幼稚園児だった次男と工作をして遊んだことがきっかけでした。
「ハサミで切れるし、のりで貼れる。加工しやすくて遊ぶ材料としてはちょうどよかったんです。最初は切ったり丸めたり剣のようなものにしたりして楽しむ程度でした」
もともとプラモデルなどものづくりが大好きで、高校・専門学校でデザインを専攻していたオダカさん。「息子にいいところを見せたい」と、あるときダンボールで「ガンダムシリーズ」に登場する「ザク」のかぶり物を作りました。
それを見た次男は大喜び。「ザク」をかぶって近所を歩いたり、プラモデル店に見せにいったり、今までにないくらいのテンションで楽しんでいたそうです。
※今までにないテンションで楽しんでる様子がうかがえますね。
その後も休みの度に次男から「何か作って」とリクエストされました。
「どうやって息子を喜ばせようか考え、画材を買いにいったり、試作してみたり、毎日時間があれば作業していました」とオダカさんは振り返ります。
大きな転機となったのは、幼稚園のハロウィーンイベントです。前日、夜8時過ぎに帰ってきたオダカさんに、「明日ドラゴンをかぶって行きたい」と次男から急な〝依頼〟がありました。
「パパ疲れてるから、ごめんなさいしていい?」と聞くオダカさんに、次男は「パパはいつもやる前から諦めちゃダメだっていうのに、パパは諦めていいの?」と一言。
オダカさんの心に火がつき、徹夜でドラゴンを仕上げました。次男は大満足でかぶっていったそうです。
「せっかく作ったから」と作品をSNSに投稿するようになり、多くの反響を受けて2017年ごろから作家活動を始めました。
2019年秋には、カワチ画材心斎橋店を会場に関西で初の個展を開催。2023年夏にも展示会とワークショップを開いています。
サラリーマンスキルが生きる作家の世界
ダンボールアーティストとして活躍の場が広がってきましたが、サラリーマンとの「兼業」を続けるオダカさん。
独立して「専業」になるアーティストも多いなか、「僕の強みの半分くらいは『サラリーマンであること』」と話します。
サラリーマンを続ける理由には経済的な事情もありますが、仕事での経験は作家活動にも生きています。
「商談が得意で、交渉は大好きです。会社で数億円を背負ったプレゼンを経験しましたが、それに比べたら自分の活動での交渉は身軽。契約書も読めるのでサラリーマンスキルはとても役に立っているんです」
現在は管理職の立場ですが、デザイン以外にも広報やマーケティングなど担当する業務は、自身のホームページ運営にも参考になっています。
サラリーマンとして培ってきた「テキストにまとめるスキル」は、著書で自身の技術を言語化する際に役立ちました。
※新紀元社 オダカマサキ(著)「オダカマサキ ダンボール アートワークス」
兼業のため平日の創作時間は短くなるものの、作品にかける時間が必ずしもクオリティーの高さにつながるわけではないとオダカさんは言います。
「僕は根がデザイナーなので、クライアントの予算や納期など要望に対して応えることが前提です」
「例えば、テレビ局の仕事で『納期3日』という依頼がありました。3日しかないなかでどういうパフォーマンスができるか。それはこちらからご提案を差し上げる話です」
「3日で完全立体造形はできないため半立体にし、クオリティーは下げずに工夫させてくださいと。そのいろんな提案ができるのも僕の強みだと思います」
オダカさんは、サラリーマンとアーティストの「両輪」で回っている今が楽しいと話します。
「どちらかに絞る理由もありませんし、サラリーマンを辞めないと成功できない道でもないと思うんです」
楽しさやノウハウを次の世代へ
会社では後輩の育成をしているオダカさんですが、ダンボールアーティストとしても次世代を意識した活動をしています。
願っているのは、「多くの子どもたちにダンボールアートをまねしてほしい」ということ。だからこそ、著書やSNSでは作り方や道具をオープンにしています。
「工作の楽しさを子どもたちに伝え、ノウハウを次の世代に渡していくにはどうしたらいいかを考えています」
子どもたちにまねしてほしいというオダカさんですが、それは「余裕」の裏返しでもあります。
※ギラファノコギリクワガタは夏休み感あふれる作品で、子どもたちに人気がでそうですね
同じ道具を使い、同じように作ったとしても、簡単に手の届く世界ではないーー。挑戦した子どもたちとしては、なかなかたどり着けない「高み」があると知ることにもなります。
「子どもたちには倒す相手が必要」として、まだまだ「高み」を目指すオダカさん。「子どもたちが見て、『おぉー!』と思うレベルの作品」を作り続けます。
2022~2023年に制作した「妖怪『牛鬼』」「分福茶釜」「麒麟~KIRIN~」の三つは、「自分なりにやりたかったことができた、その3段ステップのような作品」と位置づけています。
※左から「妖怪『牛鬼』」「分福茶釜」「麒麟~KIRIN~」
※「麒麟~KIRIN~」の細部アップ。たてがみやヒゲ、うろこもすべてダンボールで作られています。
それまでは「作りたいイメージに技術が追いついていなかった」のが、作家活動を始めて6年で「一つのゴール」にたどり着いたそうです。
オダカさんにとって、ダンボールアートは「子どもたちへのメッセージングであり、コミュニケーションツール」。引き続き、ダンボールを通して見たことのない世界を見せてくれるに違いありません。
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◆プロフィール
オダカマサキ(オドンガー大佐)さん:1976年、埼玉県生まれ。会社員をしながら、2017年から「ダンボールアーティスト」として作家活動を始める。
X(@odonger2)やホームページ(https://odonger.jimdofree.com/)で作品や造形のポイントを紹介。
著書に『オダカマサキ ダンボール アートワークス』(新紀元社)。
◆使っている主な画材
・ダンボール Gフルート(0.8mm厚)、Eフルート(1.5mm)
・カッターナイフ
・ハサミ
・スパチュラ
・細工棒
・ピンセット
・グルーガン
など
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。