「はっきりとした線、美しさとコントラストの強さを求め、たどり着いた」切り絵作家・碧輝うろこさん

画人画廊・on line vol.04 artist「碧輝うろこ」2023年9月30日

「はっきりとした線、美しさとコントラストの強さを求め、たどり着いた」切り絵作家・碧輝うろこさん

 

メリハリのある、はっきりとした線。
コントラストが強く、「にじみ」という概念がない。

そんな世界に魅せられ、切り絵を始めた碧輝(あおき)うろこさん(31)。蝶々や風景を中心とし、平面ながら奥行きのある繊細な作品を世に出しています。

幼い頃から絵を描くことが大好き。「小中学生のときは、授業中でも隙あらばペンで絵を描いていました」と笑います。

ペン画以外にも、水彩、油彩、アクリル、木版と、あらゆる方法で風景を描きました。

絵画は、誰かに教わるでもなく、出展を目指すのでもなく、「描きたいものが浮かんだときに描く」趣味として楽しむものでした。

19歳で始めた切り絵

切り絵で表現するようになったのは、2010年。19歳の頃です。

「いろいろと試していく中で、メリハリのある、きれいな線を出したいと思うようになりました。海洋生物や蝶々、葉っぱや花を単体で描きたくなり、シュッとした線やコントラストの強さを求めて切り絵にたどり着きました」

切り絵表現をひらめいたとき、「日常が輝いて見えた」そうです。

切り絵は小学生の頃に授業で触れた程度で、絵本『モチモチの木』(絵:滝平二郎)のイメージが強かったという碧輝さん。2010年当時SNSを使う人は今ほどおらず、切り絵作品と出会う機会は少なかったといいます。

そんな中でも、レース切り絵の先駆者・蒼山日菜さんの作品をテレビで目にしたことがあり、「自分だったらどう表現できるか」を考えたそうです。

「答えが見えていないからこそ、自分の作品としてやりたかった」と碧輝さんは振り返ります。その後、独学で自身の表現を磨きました。

※右下のサインもすべて切り絵。切り絵なのですべてつながっています

2012年にはインターネットで出会った切り絵仲間との初めてのグループ展に参加し、2014年に本格的に切り絵作家になることを決意。切り絵を始めて半年後くらいには、「髪の毛のように細い線、求めている線を出せるようになった」といいます。

2010年代半ばには、カワチ画材阪急三番街店(大阪市北区)などで切り絵ワークショップを開いたり、「doArt切り絵用紙 景絲(けいし)」など、切り絵用紙シリーズの監修を務めたりしました。

筆ではなく、切り絵で表現する蝶々

 

現在、切り絵作品の多くは蝶々をモチーフにしています。

大阪昆虫同好会の幹事でもある碧輝さんは、大の蝶々好き。「蝶の人」と呼ばれることもあり、近年ではタテハチョウ科の一種「スミナガシ」の世界最北限の生息地を発見したそうです。

そんな碧輝さんですが、蝶々を表現したのは切り絵が初めてでした。

「私の場合、筆で蝶々を描こうとすると、よりリアルに、描き込んで表現しようとしてしまいます。しかし、蝶々を細密画で描くことは私が本当にやりたいことではありません。細密画では上手な人がたくさんいて、その人の絵を見る方が楽しいんです」

切り絵では、実在する蝶々を表現する際にも「自分らしくデフォルメできる」と話します。

※モノクロだけでなく「切り絵用色材」を使いカラー表現も可能に

グラデーションなど色の変化を表現できる筆ではなく、コントラストのはっきりした切り絵を求めた碧輝さん。黒や白の線に色を置く画法を得たからこそ、「蝶々を表現しよう」と思えたそうです。

切り絵は引き算

切り絵の魅力について、「にじまない、線がきれい。これにつきます」と碧輝さんは話します。

「様々な技法や画材がある中で、絵を描くことは足して答えを探っていく一方、切り絵は『引き算』です。マイナスしかできないので、無駄がなくなり、洗練されていく良さがあります。だから線もきれいに見え、きりっとした作品に仕上がるのだと思います」

作品に登場する蝶々や風景は、「自分がかっこいい、きれいだと思った瞬間」です。切り絵のイメージを求めてどこかに行くのではなく、訪れた先々で「これを切り絵で表現したい」と感じたものを大事にしているといいます。

※想い出フィルム 2014年制作

これまで多くの作品を作ってきましたが、もっとも印象深い作品は2014年に発表した「想い出フィルム」です。「当時の集大成」として、40号の紙に表現。いずれも、自身の心が揺さぶられた風景、好きな蝶々を選びました。

「この作品が評価されなかったら、切り絵は向いていないということ。趣味の範囲で続ければいい」とプロになるための勝負をかけた作品でもあり、当時、新国立美術館(東京都港区)で開かれた公募展に応募しました。

結果は入選。想いを込めて作った作品が認められ、堂々と切り絵作家としての道を歩み出しました。

多くの人に切り絵と接点を

切り絵作家として活躍する碧輝さんの願いは、「大好きな切り絵に多くの人に触れてもらい、切り絵を画法として認知されるようにしていきたい」ということです。

※ライブカッティング in zepp名古屋での切り絵パフォーマンス。

「大きな展示会を開いたり、切り絵の教科書のような本を出したりしたい。それをきっかけに、『切り絵をやってみよう』と思ってくれる人が増えるとうれしいです」

ギャラリーの運営もしており、「ギャラリーを訪れて絵を買うという敷居の高さを良い意味で取り払い、絵を買うことを身近にしたい」という碧輝さん。「まだ評価されていない作家さんたちも世に出していきたいです」と話しています。

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◆プロフィール

碧輝うろこさん:1991年、大阪府門真市生まれ。切り絵教室や全国各地でのワークショップ、国内最大級の切り絵公募展の主催等を通して切り絵文化の普及活動にも積極的に取り組む。蝶の人(蝶屋)としては専門誌への原稿執筆やフィールド調査、大阪昆虫同好会のHP幹事を務める。自然をテーマとしたアートギャラリー「アトリエキプリス」代表。

◆使っている主な画材

・デザインナイフ KIRIE DK1P エヌティー株式会社
・カッティングマット エヌティー株式会社
・doArt切り絵用紙シリーズ(濃黒切り絵用紙・切り絵用紙 景絲(けいし)・純白切り絵用紙・切り絵用色材8色) カワチ画材店


◆ライタープロフィール

河原夏季

朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。

SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。

1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。

クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。

Twitter https://twitter.com/n_kawahara725

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