画人画廊・on line vol.11 artist「佐々木昂」2024年5月1日
「不思議の国のアリス」に助けられた…童話の世界観を表現するイラストレーター・佐々木昂さん
※”不思議の国のアリス”をモチーフにした素敵な世界観。「アリス時計」
童話の世界や少女、動物をテーマに作品を描くイラストレーター・佐々木昂(あきら)さん(35)。
なかでも、「不思議の国のアリス」はモチーフの中心となっている作品です。
「大学時代に仲の良かった友人がアリスを描いていたことがきっかけ」で描き始めましたが、今では佐々木さんの代名詞と言えるほどに。「アリスに助けられてきた作家活動だと思います」と振り返ります。
阪急うめだ本店(大阪市北区)で続いている「英国とアリス」(Corona Rosarum主催)という企画には、10年前から出品しているそうです。
「アリスや童話をモチーフにする際は、向きや動作、構図からイラストの中にストーリー性を感じてもらえたらいいなと思っています」
「気を紛らわすため」描いたラクガキ
小学生のころから、ノートのすみっこに「ラクガキ」をする少年だったという佐々木さん。先生の似顔絵のほか、「線」をひたすら描いていたといいます。
「授業中、勉強をしたくないから気持ちを紛らわすために描いていました。家に帰っても絵を描こうという感じではありませんでした」
※カワチ画材との最初のコラボ「湯呑み展」の作品。
「ラクガキ」のクオリティは同級生の目にも留まりました。高校生の頃、「ラクガキ」を見た友人から「ポスターを描いて」と頼まれ、部活の部員募集のイラストを描いたそうです。
「人から頼まれることの喜び」を感じた経験でした。
ジャンルを問わず、気の向くままに
高校卒業後は美術系の大学に進み、イラストを学びました。
同級生の多くは、絵が好きでずっと描いてきた人たちでした。「線しか描いてこなかった」佐々木さんは、「何を描けばいいか分からないところから出発したので、人が描いているものを見てまねしよう」と思ったそうです。
※過去の作品。現在の作品のベースになる雰囲気はとても感じられますね
現在の画風に近い絵やポップなイラスト、浮世絵を模したもの……。ジャンルを問わず、気の向くままにペンを走らせました。
枠を設けず描いた中で、注目されたのが現在のようなメルヘンチックなイラストでした。ステッカーとして発売され、仕事につながったといいます。
「ずっと、『好きなものを描いている』という感覚はありませんでした。求められるから描く。絵を描くことが好きというよりは、続けられたから描いている。でもそれは、好きだから続いていたとも言えるかもしれません」
「実は人形なのかもしれない」
一方で、イラストのモチーフには「好きなもの」を採り入れています。
幼い頃からロボットや怪獣のおもちゃ、妹のリカちゃん人形など、「人形」が身近な存在だったという佐々木さん。球体関節人形が好きで、人形展にも足を運びます。
「少女のつもりで描いていても、実は人形なのかもしれない」
※点滴ちゃん
佐々木さんは自身の作品についてそう考えています。
「僕は少女を題材にすることが多いのですが、表情を描くことは多くない。めっちゃ笑顔の人形はあまり見たことがありませんよね。表情を描きたいとも描きたくないとも思わないので、どっちともとれないような顔になっています」
「心の薬」としての絵
自身の作品と「人形」を重ねたのは、2021年にカワチ画材阪急三番街店のギャラリー「画人画廊・阪急三番街」で開いた個展「placebo」(プラシーボ)がきっかけでした。
「プラシーボ」は「偽薬」を意味します。
※2021年 カワチ画材阪急三番街店・画人画廊で開催された個展キービジュアル
メインビジュアルに描かれたのは薬のカプセルです。カプセルに入る女の子の足元を、埋めつくすように詰め込まれたクマ。女の子は球体関節人形、クマはぬいぐるみで、「かわいい」の偽物を表現しました。
「『かわいい』というのは心の薬になることが多いけれど、私が描く絵はあくまで偽物の『かわいい』だよというイメージです。ただ、それが『プラシーボ効果』として効き目があるのであれば百薬の長だから、私はこれからも続けていくよというコンセプトでした」
コンセプトへの考えを深める中で、「これまで描いてきた絵はすべて人形だったのかもしれない」と思い至ったそうです。
※2020年 カワチ画材心斎橋・画人画廊で開催された個展「ドード・プリィモア」。コロナの影響でWEB展示会に変更に。
2020年にも「画人画廊」で個展を開いていましたが、当時はコロナ禍。開催期間の満了を待たずに休店となったといいます。
「2021年はリベンジもかねた年でした。コロナ禍で気持ちが沈んでいる人もいて、『佐々木さんの絵だけが楽しみです』というお手紙をいくつかいただき、心の薬として絵を見つめ直してみようかなと思いました」
コロナ禍を経て…
コロナ禍以前、自身の「社会的な機能」を考えていた時期には、制作活動を「紙を汚すだけの仕事」と揶揄していたこともありました。
「何がかわいくて、何がいい絵なのか分からずに描き続けていた」といい、すべては見る人の価値観にゆだねていたそうです。
※透明感ある作品は水彩絵の具ではなくカラーインクから生まれます。
作品を見て、評価をしてくれる人があってこそ成り立つーー。その意識はあったものの、コロナ禍で絵を待ってくれている人たちの声を聞き、責任感が増しました。
「価値がつくとはどういうことなのか、もうひと段階考える機会を得られました。コロナ禍の3年間を忘れずに過ごしていきたいですね」
今後については、自身の活動の核である「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」の挿絵を入れた本を作りたいと話しています。
※佐々木昂さんの今後の展開が楽しみです。「クイーンアリス」
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◆プロフィール
佐々木昂さん:1989年、兵庫県生まれ。神戸芸術工科大学ビジュアルデザイン学科卒業。カラーインクを使いメルヘン、サブカル、ゆめかわなどを題材に少女や動物のイラスト表現を用いた作品を制作。ステッカーブランドB-SIDE LABELにて毎月新作ステッカーデザインを制作している。
◆使っている主な画材
・ラディアントインク ドクターマーチン
・エコライン ターレンスジャパン
・アートカリグラフィーインク アートカラー
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。