「絵に文章以上の情報を…」想像力をかき立てる切り絵・絵本作家 たけうちちひろさん

画人画廊・on line vol.20 artist「切り絵・絵本作家のたけうちちひろ」2025年1月31日

「絵に文章以上の情報を…」想像力をかき立てる切り絵・絵本作家 たけうちちひろさん

※『ぼくのおうち わたしのおうち』のワンシーン。ふたごのめいちゃんと ろうくんのおおきな おおきなおうち。

カラフルな切り絵でワクワクする世界を描くイラストレーター、切り絵・絵本作家のたけうちちひろさん。

たびたびカワチ画材の個展やグループ展に参加したり、切り絵用紙の共同開発をしたり、活動は多岐にわたります。

2024年に出版した絵本『ぼくのおうち わたしのおうち』(世界文化社)では、ネコがたくさん住むネコ耳屋根のおうちや、迷路になっている大きなおうちなど、個性あふれる魅力的なおうちを表現しています。

「好きなものに囲まれているおうちは楽しいですよね。私もネコを4匹飼っています。たくさんのものに囲まれているおうちは、のぞくのも楽しい。そういう世界観を表現できたらと思いました」

息子に背中を押され

作家になる前、たけうちさんは地元・大阪府枚方市の新聞社でデザインや編集の仕事をしていました。

15年以上勤務していた2006年12月、当時5歳の長男から「あまり笑ってないけど、最近おもしろくないの? 絵がうまいから、お絵かきの先生になったら?」と言われたそうです。

※『Google』2018年3月「国際女性デー」に世界の12人の女性アーティストによるアニバーサリーロゴを制作。すごい!

日頃から何も見ずにアンパンマンなどのキャラクターを描いてくれる母親は、子どもにとって「絵がうまい」存在でした。

長男の言葉に「楽しく仕事しているというより、目の前のことをこなしているだけになっていたかも」と気づかされたといいます。

「そやね、お絵かきの先生になるわ」。幼い頃にめざしていたことを思い出し、長男に伝えました。翌日、上司に退職を願い出たといいます。

翌2007年4月、小学生以下の子どもたちを対象にした造形絵画教室を開きました。以来、教え子は関西圏を中心に数百人を超えるそうです。

図工の時間だけは生き生きと

たけうちさん自身、保育園の頃からものづくりが大好きで、年長で近所の絵画教室に通い、水彩画や工作を習っていました。

対人関係は苦手で、恥ずかしがり屋。運動も得意ではありませんでした。週1回、絵画教室に通っている時間だけは「人の目を気にせず、好きなことに集中できた」といいます。

保育園ではたけうちさんの描いた作品が飾られ、保育士や友だちに一目置かれる存在でした。

小学校の通信簿には「図工の時間だけは楽しそうに、生き生きしている」と書かれていたそうです。

絵画教室では油絵にも挑戦するようになり、家族も「この子は絵だけ描いていてもいい」と画材を買って応援してくれました。

中学生になると近所の絵画教室は卒業し、学校の美術部に所属して毎日自由に活動を続けました。高校では部活に入らず、自宅から4駅離れた絵画教室に通ったといいます。

2度目の絵画教室では小学生のときに習った写実的な表現ではなく、デザインや想像力の大切さを学びました。「私はリアルを追求するよりも、デザインが好きなんだと思いました」

※『みんなのいちねん』アリス館。街並みは外国風だけど、こいのぼりや柏餅などどこか日本風。デザインや想像力で引き込まれる世界観が魅力的ですね。

アイデアの育て方を学んだ経験は、現在子どもたちに指導をするときにも生きています。

「絵を描くことだけではなく、何かを企画したり、たくさん引き出しを持っていたりすることも大事です。いま私が指導するときも、テクニックより想像力を養えるように意識しています」

国際コンクールに2年連続で入選

2007年に造形絵画教室を開いた数年後、切り絵を始めて作品をホームページ(HP)にアップしました。HPをきっかけに出版社のライターに声をかけられ、クラフト本の出版にもつながったそうです。

造形絵画教室を開きながら作家活動を続けていたある日、たけうちさんは生徒のある言葉に立ち止まりました。

「大人は毎日同じ仕事をしていて楽しくなさそう。学校の先生も『大人はおもしろく見えるかもしれないけど、そんなことはない』と言っていた」

※『ぼくのさがしもの』2015年ボローニャ入選作品。

たけうちさんは「大人は楽しい。大人が挑戦している姿を見せよう」と、2015年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に切り絵でロボットの物語を応募しました。すると、見事入選。翌年も工場を舞台にした作品『ぼくのつくりかた(邦題)』が入選しました。

しかし、入選したからと言って絵本になるとは限りません。自ら世界各国の出版社にメールをして作品をアピールした結果、オーストラリアやフランス、イタリアでの出版につながったそうです。

※色々な形をさがしていく「絵探し絵本」。日本のみならず、英語圏やアジア圏でも翻訳されています。

「言葉がなくても絵で理解できるのが私のスタイルです。切り絵というアナログのよさも審査員の印象に残ったのだと思います」

現在出版した絵本は10カ国語にのぼるそうです。

万博、サイレントブック…続く挑戦

国内外で30冊以上の絵本を出版してきたたけうちさんは、「子どもたちが読んでいる姿や、読んだときにどう感じるのか、絵の向こう側まで想像して作っている」と話します。

※『だれのほね?ぼくたちきょうりゅう』出版ワークス。ステゴサウルスの背中の骨板の色が違うところにこだわりを感じます。

一方で、「読者にこうなってほしい、という強いメッセージ性はなく、受け手にゆだねています」といいます。いまは、より読者の想像力をかき立てる「サイレントブック(文字のない絵本)」にも取りかかっているそうです。

「もともと文章で何かを読み取るというより、絵から感じてもらう、余白のある絵本を作りたいと思っていました。絵で文章以上の情報を表現しているので、自由に読んでほしい。子どもたちの目線や距離感は、大人とはまったく違って新鮮です」

2025年4月に始まる大阪・関西万博では、大阪の魅力を伝える「大阪ウィーク」で枚方市PR大使として「未来の枚方のまち」を創る来場者参加体験型のプロジェクトを担当します。枚方市を模した巨大地図や、子どもたちが「あったらいいな」と思う建物、お店、乗り物などを廃材を使って制作するそうです。

「大人は楽しいよ」を身をもって示すたけうちさん。挑戦はまだまだ続いていきます。


◆プロフィール
たけうちちひろさん:1971年、大阪府出身。イラストレーター、切り絵作家、絵本作家。武蔵野美術大学短期大学部グラフィックデザイン科卒業。地域新聞社を退社後、2007年にこども造形絵画教室おえかきひろばを大阪・京都中心に開講。その他、企業や幼稚園、小学校、障害者福祉事業所などの工作指導・ワークショップ企画、工作本の監修などを手がける傍ら、自らの作家活動にも励む。2018年3月8日「国際女性デー」には世界12人の女性アーティストに選出され「Google anniversary Logo」を制作。主な著書に『みんなのいちにち』(アリス館)、『おおきいちいさい』(BL出版)、『だれのほね?』『ぼくのつくりかた』(出版ワークス)などがある。

◆主な画材
・タント紙
・マーメイド紙
・デザインカッター
・切り絵バサミ


◆ライタープロフィール

河原夏季

朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。

SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。

1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。

クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。

Twitter https://twitter.com/n_kawahara725

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