画人画廊・on line vol.32 artist「絵描き・Oka Yuka」2025年12月9日
妖怪の背景を知り、絵に落とし込む〝異形〟に魅せられた絵描き・Oka Yukaさん
※白澤(はくたく)・・・Oka Yukaさんの描く妖怪は、メカニカルな要素を持ちながらも、不思議と「いのち」の温かさを感じさせます。
「妖怪って変な形やし、『異形』が好きやったんちゃうかな。おったら楽しいやろなぁと思って」
妖怪を描く大阪府在住の絵描き・Oka Yukaさんはそう話します。
幼稚園のころテレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』を見て衝撃を受け、人間ではない〝異形〟なものへの関心を深めてきました。
※鳴釜(左端)を含む正方形シリーズの作品です。
幣六(へいろく)、木魚達磨(もくぎょだるま)、髪鬼(かみおに)など、個性豊かな妖怪たちが登場します。
ぜひ、それぞれがどんな妖怪なのか調べてみてください。
「『釜鳴り』という、釜に魂が宿ったつくも神『鳴釜(なりかま)』をモチーフにした妖怪が、鬼太郎を吸い込んでいたんです。それが記憶にへばりついていて。でも大人になって調べてみると、実際そんなことをする妖怪ではなかったんですよ」
その後も、小学4年生でエジプト神話に、中学生で日本神話に興味を持ちました。「テレビで見たエジプトの壁画は、人のような絵がずっと並んでいて『あれはなんや!?』と衝撃でした。その後、中学生のときにテレビを見ていて日本にも神話があることを知りました」
異形の存在に惹かれる心は、幼少期から一貫しているそうです。
幼稚園の先生が作っていたカレンダー
※わいら・・・上半身には巨大な爪を1本ずつ備えているが下半身は不明の謎多き妖怪。
絵を描くことも幼い頃から好きでした。記憶に残っているのは、幼稚園の先生が毎月手作りしていたカレンダーです。
「先生が季節に合わせて絵を描いていて、その過程を見るのが大好きでした。みんなが遊んでいる間も、横でじっと見ていました」
小学1年生から中学3年生までは絵画教室に週1回通い、アクリル絵の具や色彩を学びました。高校は美術科に進み、油絵や水彩画、粘土、木工などを経験。芸術大学のデザイン学科へ進学し、イラストやCGを極めました。
妖怪を深く調べるように
※こう(犭+ 孔)・・・神仏の乗り物であると考えられた中国に伝わる霊獣。よくみると鞍が描かれています。
絵を描くことは好きだった一方、この頃はまだ妖怪を描いてはいません。
大学時代は、古本屋で水木しげるの漫画を探すうちに伝奇SF漫画『ヤマタイカ』(星野之宣著/潮出版社)と出会い、「日本神話の神様にも名前が付いている」ことを知りました。
そこから日本書紀や古事記を読み、実際に描かれた地域を訪ねて日本神話の絵を描くようになったといいます。
大学卒業後には、友人に勧められて京極夏彦の長編推理小説『姑獲鳥(うぶめ)の夏』(講談社)を読みました。姑獲鳥とは、産婦が死んで化けた妖怪のこと。小説は姑獲鳥にスポットが当てられていて、「妖怪にはこんな歴史があるのか」と感銘を受けたそうです。
さらに江戸中期の浮世絵師・鳥山石燕(せきえん)の妖怪画集『画図百鬼夜行』も手に取り、妖怪について詳しく調べました。
趣味から本格的な創作活動へ
妖怪を描き始めたのは、10年ほど前のことです。
就職氷河期に絵の仕事を希望してデザイン事務所を受けましたが思うようにいかず、飲食店などでアルバイトをしながら生活しました。
30代のころ、再び趣味で絵を描き始めます。
それまではアナログとデジタルを融合させて創作していたOka Yukaさん。しかし、作家3人でグループ展をしたとき、アナログで50センチほどの大きな作品を描いている作家を見て刺激を受け、うらやましさを感じたそうです。
当時、Oka Yukaさんの作品はA4サイズほどの大きさでした。
※Oka Yukaさんの作品の魅力の一つに、独自のキャンバスサイズがあります。掛け軸や屏風を思わせる縦長・横長のフォーマットは、とても新鮮で魅力的です。左から以津真天(いつまで)、センジュカンノンテキナモノ、狐火(きつねび)
大きな作品をアナログで描くと決めたとき、モチーフを妖怪に決めました。「飽き性なので、好きなものしか描けないと思って妖怪を描くようになりました。人の形を描くことは苦手で、日本神話は省きました」
妖怪は人間に比べ、自分の世界観で描けることも気持ちが楽だったと言います。
「以前夫に、『人間は自分たちが見ている一番身近な動物やから、粗が探しやすい』と言われたんです。『ここが変』というのがみんなに分かりやすいけれど、動物だと多少の違和感があっても粗が目立ちにくい。それなら、中国の妖怪は動物のような姿が多いので、楽しく描けそうだなって」
「妖怪も、もしかしたら詳しい人から『こんなん違うで』と言われるかもしれませんが、『うちのイメージはこれやから』って、そういう逃げ道があると思いました」
古紙風にするために使うコーヒー
2017年頃からは専業作家として活動を始めました。軸となるのは、カワチ画材などで開かれる展示会です。カワチ画材では2022年に初めて個展を開きました。
大きさにもよりますが、ひとつの作品にかかる時間はおよそ1カ月。作品は古紙風に仕上げるため、下地にコーヒーを使います。
「木製パネルに紙を水張りして、その上からコーヒーを塗っています。美しく描きたいとは思っていますが、下地がどう定着するか分かりませんし、こちらがコントロールできないんです。色を置くのも苦手なので、だいたい青、赤、白、黒、コーヒーの5色で仕上げています」
※鵼(ぬえ)・・・コーヒーの演出が言い表せない独特の世界観を醸し出しています。
偶然性が高いからこそ、納得のいく作品は自身の想像を超える出来になります。特に代表作と胸を張れるのは、「鵼(ぬえ)」を描いた作品です。
「2023年に京極夏彦さんが17年ぶりに書き下ろした『百鬼夜行シリーズ』の『鵼の碑(ぬえのいしぶみ)』を読んでイメージしました。小説で鵼の説明を読み、『自分の中ではこんな感じかな』と解釈しました」
妖怪の背景を調べ、知識もすべて創作に活かすのがOka Yukaさんのスタイルです。
「鵼はもともと姿がない妖怪ですが、一般的には顔がサルで胴体がトラとされています。私が描いた鵼は、よく見るとお面で顔を隠しています。背景と体の色も同じ茶系にしてぼかし、存在を曖昧にしました。思っていた以上に仕上がりが良く、納得のいく作品になりました」
海外へ妖怪を届けたい
※二十二社タロットカード・・・タロットカードの要素を踏まえ二十二社をモチーフにしたデザイン。
今めざしているのは「小説などの装画」と「海外での個展」です。愛する妖怪を、海外の人にも知ってもらいたいと考えています。
「私の絵そのものよりも、妖怪に興味を持ってもらえたらうれしいです。もっともっと妖怪好きが増えたらいいなと思います」
◆プロフィール
Oka Yuka(おか・ゆか)さん:大阪府在住。大阪芸術大学デザイン学科卒業。妖怪っぽい生き物、ときどき神仏を描いている絵描き。コーヒーを主軸に透明水彩、色鉛筆、ペン等で描く。
Instagram(@okadayukari_1113):https://www.instagram.com/okadayukari/
X(@OkaYuka5):https://x.com/okayuka5/
◆使っている主な画材
・コーヒー
・透明水彩絵具
・色鉛筆
・ペン
・鉛筆
【今後の展示予定】
Oka Yuka個展「神獣奇獣幻獣展 其ノ参 竜生九子」
・2026年1月17日(土)~29日(木)
カワチ画材心斎橋店 店内ギャラリー「心斎橋画人画廊」
大阪市中央区東心斎橋1-18-24
tel:06-6252-5800
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。























