画人画廊・on line vol.21 artist「デザイナー・NanaAkua」2025年2月28日
「プラバンを世界へ」〝第一人者〟が掲げる夢 デザイナー・NanaAkua(ナナアクヤ)さん
※プラバンで作られたとてもきれいなお花のアクセサリー。しかも特別な工具が無くても身近にあるもので作れちゃうんです。
「たった1枚の色もないプラスチックの薄いシートが、色を塗ったり、形を切ったり、熱を加えて曲げたりすることでまったく違うものになる」
デザイナーのNanaAkua(ナナアクヤ)さんは、そんな「プラバン(プラスチックの板)」の魅力を伝えたいと、各地でアクセサリーなどを作るワークショップを開催しています。
参加者から「ナナさん」と呼ばれて親しまれ、これまでにプラバンアクセサリーに関する本を国内外で10冊以上も出版してきた〝第一人者〟です。
カワチ画材が発売するプラバンでも作品を作り、阪急三番街店などでワークショップを重ねてきました。
「のれそれ」に心を動かされた
※プラバンアクセサリーのアップ。見えてる部分すべてプラバンで出来ています。
プラバン作品というと平面のイメージが強いかもしれませんが、ナナアクヤさんが作るプラバンアクセサリーは立体的で鮮やかです。プラスチックのシートから作られているとはとても想像できません。
プラバンアクセサリーを作り始めたのは、2011年夏。その年の3月に居酒屋で出合った「のれそれ(アナゴの稚魚)」に心を動かされたことがきっかけでした。
「のれそれ」の美しさとおいしさに感動して創作意欲が湧き、その透明感を「プラバンで表現しよう」とアイデアが浮かんできたといいます。
※「のれそれ」とは。ナニソレ?っと思った方はこちらの記事をクリック
プラバンは小学生の時に実家で遊んでいたため、素材や作り方のイメージはできていました。100円ショップでプラバンを購入し、「のれそれ」のストラップとピアスを作ったそうです。プラバン作品を作るのは小学生ぶりでした。
ナナアクヤさんは、「味や見た目、美しさ、おもしろさなど何かに感動したとき、私はそれを『自分の手のひらの中に入れてみたい』と思うのです」と話します。
「『手のひらの中に入れる』というのは、そのものを手に入れることができる場合にはそうすることもありますが、できないときには『何か別の素材を使って表現してみたい』と思っていました」
それまでも、羊毛フェルトや粘土で作ってみたり、布で人形を作ったり、心に響いた経験を形にしてきました。「手のひらの中に、そのかわいらしさや感動した心を表現したいというのが創作の原点です」
2013年春、ホタルイカを捕まえて食べることを目的に富山へ行きましたが、時化(しけ)でかなわなかったことから、プラバンの存在を思い出してホタルイカのアクセサリーを作ったそうです。
※時化ではなく凪でホタルイカを食べていたら、もしかしたら今のスタイルにならなかったかも?な記事はコチラ
当時はちょうど、消しゴムはんこの制作にハマっていた時期。「ホタルイカの消しゴムはんこを作ってプラバンに押したらかわいいかも」と考えたといいます。
※ホタルイカを作るときに感じた「一瞬だけ形が自由に出来るプラバン」。プラバンのもつポテンシャルに気づいた瞬間ですね。
プラバンでホタルイカを作っている途中、「温めて柔らかいうちなら、足の向きなどを自分で曲げられるはず。それならお花も作れるかもしれない」と感じたそうです。お花は、ナナアクヤさんが好きなモチーフの一つでした。
「大人が作ったのでは?」教師に誤解された腕前
ナナアクヤさんは幼い頃から、「材料があれば何でも作っていた」と話すほどものづくりが大好きでした。
粘土で作品を作ったり、ビーズで人形を作ったり、布を切ったり貼ったり。小学生の頃にはかぎ針の編み物でクッションカバーを作ったこともありました。
「小学校の家庭科で刺繍の授業があったのですが、先生に『これ大人が作ったのでは?』と誤解されるほどの腕前を見せていました」と振り返ります。
高校生のときは文化祭でアルミワイヤーのアクセサリーを販売すると大きな反響があったそうです。
子どもの頃の家庭環境も、ものづくりへの刺激となったといいます。
※手仕事に楽しみを見出すナナさんだからこそ、お花モチーフだけではなく、お寿司のプラバンという発想が出るんですね。
「〝工作〟以外にも、例えば家でソーセージを腸詰めから作ってみたり、味噌も豆から作ってみたり、とにかく『手で作る』という体験をたくさんしていました。手仕事に喜びや楽しみを見出す家庭だったと思います」
プラバンアクセサリーを始めた当時、立体的なお花を作っている作家はいなかったそうです。「当時から世の中にないものを作りたい、みんなが持っていない、市販もされていないものを作りたいという欲がありました」
立体的なプラバン作品をネットにアップすると、出版社の編集者から書籍化を打診されたといいます。
プラバンのおもしろさを知ってもらうために
「プラバンというただの薄いプラスチックのシートが立体的に変身する驚きや楽しみを発見してもらえたらいいなと思っています」と話すナナアクヤさん。
作品は「売るために作るのではなく、ワークショップをやるために作っている」といいます。「ワークショップに来てくださった方が一緒に作れるようにするにはどうしたらいいか、工夫してレシピを考えています」
※洋風な作品だけでなく、和モチーフにもピッタリ。
ワークショップで作り方を伝えることで、プラバンのおもしろさがどんどん広がっていってほしいーー。根底にあるのは、「みんなにプラバンのおもしろさを知ってもらいたい」ということです。
「プラバンを通してものづくりの楽しさを感じてもらえると、世の中がちょっと良くなるかもと思っています。そのきっかけになってくれたらいいな」と話します。
新たな表現にも取り組み、昨年「プラバン盆栽」を発表しました。「プラバンという、自然とは対極にあるような素材を使って、愛する自然の美しさをどこまで表現できるのかに挑戦した作品です。花や葉、雪からの芽吹きやキノコまで、四季の表情を盆栽に詰め込み表現しました」
※プラバン盆栽。編集者は多肉植物がすきなのでプラバン多肉植物とか作ってみたいな。
ナナアクヤさんは「プラバン作品が、『プラバン』という名前のまま世界進出したらおもしろい」と野望を語ります。すでにナナアクヤさんの著書は中国語で出版されていましたが、英語の解説も自費出版しました。
今後は2023年から開催しているイベント「プラバン博(ぱく)」を続けていきながら、世界の国々でもワークショップを開いていきたいと話しています。
◆プロフィール
NanaAkua(ナナアクヤ)さん:長野県松本市出身。デザイナー、プラバン本の著者、ワークショップクリエイター。武蔵野美術大学短期大学部空間演出デザイン専攻卒業。カナダとガーナで生活したのちに帰国し、企業内デザイナーなどを経て、フリーランスで活動。2015年春、新たに2人組のユニットnanaboを結成した。
◆使っている主な画材
・プラバン:透明・半透明・白・黒(カワチ画材、nanabo アート&クラフトラボなど)
・油性マーカー:ハイマッキー(ゼブラ)
・デコレーションマーカー:マッキーペイントマーカー(ゼブラ)/ガンダムマーカーEX ホロマーカー(GSIクレオス)/4・アーティストマーカー(ペベオ・ジャポン)/デコカラープレミアム(マービー)
・アクリル絵の具:アムステルダム アクリリックカラー パール色(ターレンスジャパン)
・ハサミ:クラフトチョキ、iD Choki(アルスコーポレーション)
・接着剤など:ボンドウルトラ多用途SU(コニシ)/プラバンぷっくりレジン・クラフト用液体プラスチック(nanabo アート&クラフトラボ)
・切削ツール:Mr.ラインチゼル GT65(GSIクレオス)
・カッティングマシン:スキャンカットDX(ブラザー工業)
・オーブントースター:各社
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。