画人画廊・on line vol.18 artist「画家・のもり」2024年11月30日
「青は一番『自由』を表せる色かもしれない」空への憧れ、色鉛筆で描く 画家・のもりさん
※すべて色鉛筆で描かれた「blue all」2024年。編集者も一瞬でのもりさんの作品の虜になりました。
「『何を描いているんですか?』とよく聞かれるのですが、答えられないんです。見てくれた人に自由に感じていただけたらと思っています」
画家・のもりさんが描く色鉛筆画の多くには、女の子が登場します。しかし、眉毛はなく、黒目がち。基本的には耳もなく、描く場合はエルフや獣の耳です。
「女の子を描くことは好きですが、できるだけ性的ではないものを描きたいと思っています。人間の女の子を描いているイメージではなくて、描いていたらその形になっているだけなんです。例えば、雲がクジラに見えるとか、天井の木目が人の顔に見えるとか。そんな感覚で描いています」
表現する仕事に憧れた子ども時代
小学校のころは少女まんが雑誌「りぼん」を愛読し、漫画家を夢見ていたのもりさん。様々な少女漫画を模写するなかで、『カードキャプターさくら』の作者・創作集団CLANPに影響を受けたといいます。
次第にファンタジーやバトル漫画に熱中し、少年漫画では『BLACK CAT』や『ドラゴンボール』、『NARUTO -ナルト-』といった漫画をまねて描きました。
しかし、模写を続けるうちに漫画家になりたいという気持ちは薄れることに。実際につけペンを使って原稿用紙に描いてみたところ、思うように描くことができなかったといいます。
※初期の頃の作品。左2013年・右2015年
「自分の絵の限界が分かりました。漫画家は無理だと思いましたが、表現する仕事には憧れを持っていました」
ノートにラクガキをしたり、小説やブログを書いたり。中学・高校時代も表現することは続けていました。
10代のころ「悩み」が映し出された絵
10代後半、家庭環境に悩んだときも、支えとなったのは絵を描くことでした。
「お金は使わず、ひとりで完結できて満足する行為が『絵』でした。悩みを人に相談できないなかで、絵を描いているときは楽しく、ほかのことを考えずにすむ。そのときだけは楽に生きられるという感覚がありました」
絵に現れるのは、自身の内面です。現在の作風とは違い「暗い絵」だったといいます。
※2011年頃の作品。モノクロの鉛筆画の「暗い絵」ですが羽根の色は先にいくほど明るくなり希望が感じられました。※編集者の感想
「目には光がなく、体の一部が何かに変わるグロテスクな表現でした。家庭環境という、自分ではどうしようもできないモヤモヤや悩みを殴り書きする『心を映した絵』だったと思います。手探りでも表現することで心が晴れました」
自分で選んだ特別な4色
転機が訪れたのは、20歳を超えたころ。アルバイトをしてためたお金で、4色の色鉛筆を買いました。
それまで使っていた画材は鉛筆のみ。「せっかく自分でやりくりできるお金があるので、鉛筆ではない画材に挑戦してみようと思いました」
※画家にとってパートナーとなる画材の出会いは偶然のような必然。出会うべくして出会った画材が「色鉛筆」だったんですね。
12色セットなど決められた色を買うのではなく、1本1本自分で吟味して選んだ4色は特別なものでした。
「使ってみたらすごくきれいで、世界が広がりました。色鉛筆のおかげで絵を誰かに見せたいと思うようになりました」
SNSに投稿し始めると少しずつフォロワーが増え、「いいね」のひとつひとつがモチベーションにつながったといいます。
描くモチーフは、10代のころのような「自分の内側」ではなくなりました。
「自分が美しいと思うものを描きました。絵をきっかけに人とコミュニケーションできるのがとてもうれしく、描いては投稿していました」
アナログの絵を見てもらえる場
SNSで多くの「絵描きさん」とつながるなかで、プロの画家でなくてもギャラリーで絵を展示できることを知りました。
当時、のもりさんはインターネット上で色鉛筆の質感を見せることに限界を感じていました。デジタルで絵を描くこともありましたが、「展示に参加してアナログの絵を見てもらえるなら、色鉛筆で続けていいんだ」と気づいたそうです。
その後、自主制作漫画誌展示即売会「COMITIA(コミティア)」の存在を知り、さらに活動の幅が広がりました。
普段は雑貨店で働きながら、絵を描いてポストカードなどグッズを作っていたといいます。
※個展wall buleで展示された作品。「チュンブルー」2024年
その後、2021年に画家として独立するために退職。2022年3月に大阪で個展を開催する目標を立て、画家生活をスタートさせました。2024年8月には、カワチ画材心斎橋店の店内ギャラリー「心斎橋・画人画廊」で個展「wall blue」を開きました。
「青」に乗せた「空への憧れ」
個展「wall blue」でテーマにした青は、のもりさんが「表現をしやすい色」でした。
※個展wall buleで展示された作品。「夢を始める」2024年。編集者はのもりさんの個性的なサインも推しです。
「青は一番『自由』を表せる色かもしれません。家に閉じこもりがちだった10代後半のころは、外出するたびに『自分が外に出ていた記録』として空の写真を撮っていました。私自身、空への憧れや思い入れがあります」
「空への憧れ」は、羽や鳥を描くことにもつながっています。
眉毛や耳はなく、黒目がち。そんなのもりさんが描く人の絵について、知人から「鳥の特徴と一致していますね」と言われたそうです。のもりさんは、「無意識に鳥によっていたのかも」とハッとしたといいます。
「自分がいいと思ったものを見てもらいたい」。好きなモチーフを魅力的に描くことができたのは、色鉛筆との出会いがあったからです。
「色鉛筆は色そのものを混ぜて塗ることはできませんが、もともときれいな色を塗っているので失敗はしません。淡く紙に乗せたあと、違う色を乗せてだんだん浮き彫りにしていけるんです。色そのものを手に持っていることにもワクワクします」
今後について、のもりさんは「色鉛筆の絵描きとして知られるようになりたい」と話します。色鉛筆メーカーとコラボをするなど、より活動の幅を広げていきたいと話しています。
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◆プロフィール
のもりさん:画家。大阪府在住。2018年より展示に参加を始め、2022年初個展を開催。色彩や線の流れを大切に、コミックアートを中心に鳥や植物を描く。「言語化できなかった欲や憧れ、見たいものや美しい現象を探してすくうように制作しています」
◆使っている主な色鉛筆
※使用頻度順、特に好きな色と品番
・ホルベイン アーチスト色鉛筆 Sky Mist(OP 371)、Apricot(OP 131)
・三菱鉛筆 ユニカラー PEACOCK BLUE(614)、BLUE GREY(567)
・ベステック カリスマカラー Apple Green(PC912)、French Grey 50%(PC1072)
・カランダッシュ ルミナンス6901 GREY BLUE(755)、SEPIA 10%(902)
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。