画人画廊・on line vol.33 artist「憂有」2026年2月7日
透明水彩と万年筆インクで〝感情〟を描く作家・憂有さん 「絵を続けないほうが……」葛藤も
※bonheur(2026年) 取材後に描き下ろしていただいた、まさに“超最新”の作品です。
透明水彩絵具と万年筆インクを使い、人物の表情を中心に描く作家・憂有(ゆうゆ)さん。幼い頃から絵を描くことは生活の一部で、独学で技術を積み重ねてきました。
描く上で特に大切にしているのは、キャラクターの表情です。表情ひとつで作品全体の印象が決まります。
「私自身、人物のイラストを見るときは自然と表情に目がいきます。キャラクターの表情から受け取る〝感情のエネルギー〟はすごく大きいのではないかと思うんです」
※駿河湾春 夢路の夜(2023年)印象的な、言葉にならない感情を宿した表情。
自身の描くキャラクターからも「一瞬の感情を受け取ってもらえたら」と話します。ただ、表情の解釈は受け手に任せているそうです。
「作者として想定している感情はありますが、例えば笑顔のイラストでも、純粋に笑っているのか、つらそうに笑っているのかは見てくださった方の受け取り方次第だと思っています」
表情の背景に想像を膨らませてほしいため、泣いている人物を描く際も涙の理由はイラスト上で明確にしないことが多いそうです。
試しながら学ぶスタイルで
憂有さんは、幼い頃から絵を描くことが習慣になっていました。幼稚園に通っていたときも、友だちが外遊びをするなか1人で教室にこもって絵を描いていたそうです。
学生時代、美術部に所属することはありませんでしたが、寝る前に30分ほど時間を作っては絵を描き、学校で友達同士見せ合っていたといいます。専門的に絵を学ぶのではなく、日常的に描くことで技術を磨いてきました。
作家活動を始めたのは2017年。趣味として絵を続けていましたが、知り合いの作家の紹介で展示会に参加しました。そこで初めて自身の作品を購入してくれる人が現れ、感銘を受けたといいます。「作品を買ってくださる人がいることがとてもうれしく、そこから本格的に作家活動をしようと決めました」
※飾彩クロマチカ(2021年画人画廊メインビジュアル)
作家として経験を積むため、憂有さんは地元の画材店に週5日ほど通い、ありとあらゆるメーカーの透明水彩絵具と用紙を買いこんで試したそうです。徹底的に自分の手で確かめながら覚えていく〝独学スタイル〟で、着実に経験を蓄えていきました。
それまではコピックを使っていましたが、透明水彩絵具のグラデーションや透明感を調整できる点に魅力を感じたといいます。
紫系の寒色をメインで使うことが多い憂有さんですが、「周囲から『紫をきれいに出すね』と言われたことが自信につながり、今の色合いに落ち着いた」そうです。
万年筆インクは〝失敗〟も作品の一部に
万年筆インクを取り入れたのは、コロナ禍の2021年のこと。感染防止のため人と人とのコミュニケーションが難しくなり、社会的活動の多くは「自粛」を求められました。個展を開いていたギャラリーも休館を余儀なくされ、作家活動も制限されていたといいます。
そんななかでも「何か新しいことをしたい」と考えていた憂有さん。偶然立ち寄った文房具店で万年筆インクに出会い、「試しにこれで絵を描いてみよう」と手に取りました。描いた作品をSNSに投稿すると、「思った以上に見てもらえて驚いた」といいます。
※静岡蜜柑(2021年) 最初に描いたインク作品。1色でありながら、奥行きのある表現が素敵です。
字を書く際に使う万年筆インクですが、イラストに用いられることもあります。しかし、当時は今ほど画材として使う例が多くなく、「周りの人がやっていないことをやりたい」と挑戦したそうです。「筆記用具を画材として使うアイデアを思いつけたことがうれしくて、透明水彩絵具と一緒にいいとこどりで使いたいと思いました」
万年筆インクは発色が鮮やかな一方、描き方次第では薄く表現することもできます。透明水彩絵具と違って一度インクが定着すると描き直しはできませんが、「間違えてしまった線も含めて作品として成立させたい」と思っていたそうです。
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コロナ禍以降、憂有さんはカワチ画材でも3Dペーパーキャンバスを使ったweb上での作品展や、心斎橋店の店内ギャラリー「心斎橋・画人画廊」での個展、コラボグッズの制作などに取り組んできました。
コロナ禍・物価高……職業としての作家とは
順調に作家活動を続けてきた憂有さんでしたが、ここ数年は「本当は絵を描くことが好きではないのかも」「作家を続けていかないほうがいいんじゃないか」と葛藤が続いていたそうです。
「コロナ禍ではギャラリー側から『売上が伸びずにすみません』と言われてしまったことがありました。その言葉を言わせてしまったことが申し訳なくて……」と振り返ります。
好きで描いているだけでは職業として成立しない――。作家としての力不足を突きつけられたように感じ、大きな衝撃を受けたといいます。
さらに、物価高による画材や額装費の高騰で作品の価値について考えることもありました。
「絵は娯楽の一部で、生活必需品ではなく嗜好品だと思います。『昨今の物価高では、以前のように絵を購入することが難しい』という意見を伺うこともありました。芸術で生計を立てていくことの厳しさを学びながら、日々手探りです」
ほかにも、SNSの仕様変更で露出が減ったり、生成AIによる作品があふれたり、作家を取り巻く環境は大きく変化しています。
※ふたりだけの羽根(2024年)
「私にとって絵は、衣食住と同じく生活に必要なもの。たまに食事をとりたくない気分になるように、絵を描くことにも一時的に悩んでしまうのだと思います」
ただ、憂有さんは描く作業に向き合うと「やっぱり楽しい」と感じる瞬間があると話します。小さな実感の積み重ねが、辞めずに続けてこられた理由でした。
比較して感じるアナログの魅力
趣味ではデジタル画も描く憂有さんですが、作家としてはアナログ作品にこだわっています。
※作業中の作品(2026年)一番最初にご紹介した作品bonheurの製作風景です
その理由は、「一点物であること」。作品を完成させるプロセスとして欠かせない額装をする際も、「『一点物のアナログ作品を、一点物のドレスに着替えさせる』意味合いで唯一無二の作品にしているのかもしれません」と話します。
イラスト講師として子どもたちに教えることもあるという憂有さん。デジタルに慣れている子どもたちが同じ感覚でアナログ作品に取り組むと、工程の違いに驚きが生まれるといいます。
「例えば、日の光が差している様子を描くとき、デジタルではレイヤーやフィルターを重ねて使うことで表現できますが、アナログでは1枚の紙のみで光の加減全てを表現しなければいけません」
デジタルの利便性を感じるからこそ、アナログの価値を再定義しているそうです。
※描き初め(2026年)絵を描くきっかけとして、「描き初め」のような身近なテーマはおすすめです。
憂有さんは悩みながらも、「アナログって楽しいんだと思ってもらえる活動を続け、私の作品を見てくれた人にお返しができれば」と話します。
「絵を描くことが好きな気持ちを忘れずに、これからも絵の発信を続けていけたら幸せです。『絵を描くこと』は私にとって正解のない哲学に近いかもしれません」
◆プロフィール
憂有(ゆうゆ)さん:東京都出身、静岡県在住の作家。透明水彩や万年筆インクなど、画材の枠組みにとらわれず作品を制作。フリルと髪の毛を描くのが好き。個展やグループ展を開催するほか、静岡インクのパッケージイラストを担当。
X(@yy_sl):https://twitter.com/yy_sl
Instagram(@naco.yuyu):https://www.instagram.com/naco.yuyu
◆使っている主な画材
・透明水彩絵具(ホルベイン、シュミンケ、W&N、月光荘)
・水彩紙(ランプライト・ストーンヘンジアクア)
・万年筆インク(文具館コバヤシ:静岡インク)
【今後の展示予定】
・2026年2月8日(日)
原画市2026 スペース:G-27
吹上ホール 第1ファッション展示場
愛知県名古屋市千種区吹上2-6-3
https://tsukushi-team.com/project/gengaichi/
・2026年3月18日(水)~3月22日(日)
ぎゃらりぃ あと 企画展「春風と心模様」
大阪市北区黒崎町14-19
https://gallery-ato.jimdofree.com/
・2026年3月21日(土)~3月29日(日)
Gallery glad. 羽の導きと共に展3
大阪市西区九条3-20-21 コーポあや1F
https://gallery-glad.amebaownd.com/
・2026年3月20日(金)~4月19日(日)
グループ展「春を告げる花々」
岐阜県大垣市桐ケ崎町64
川崎文具店2F SOMETHING LIKE THATカフェスペース
・2026年3月20日(金)〜3月30日(月)
4人展「Curtain call:Re2」
gallery lucky hirohiro
神奈川県横浜市青葉区市ヶ尾町1062-1 ローゼ市ヶ尾107
https://www.instagram.com/lucky_hirohiro
・2026年4月30日(木)~5月6日(水)
個展開催予定
ギャラリー人宿
静岡県静岡市葵区人宿町2丁目4-20
https://galleryhitoyado.com/
◆ライタープロフィール
河原夏季
朝日新聞withnews編集部の記者・編集者。
SNSで話題になっていることや子育て関連を中心に執筆。
1986年新潟県佐渡島に生まれ、中学時代は美術部。2児の母。
クリエイターさんたちの人生や作品へ込める思いを取材していきたいです。























